営業・企画職のためのXMLレシピ 第13回:XMLシステムの費用対効果について考える

XML/XML DBのサイバーテック:連載コラム/営業・企画職のためのXMLレシピ

2011年11月7日
クロスメディア開発部 部長 小野 雅史

顧客へのシステム提案時に必ず触れなければいけない「費用対効果」。XMLでコンテンツを一元管理し、カタログやWeb等に展開するシステムの費用対効果とは一体どのようなものなのでしょうか。実際に私が行った過去の提案を基に考察したいと思います。

製品マニュアル作成のコンテンツ一元管理(製造業)

マニュアルの仕様

  • ページ数:300ページ/シリーズ×10
  • 言語数:5カ国語に翻訳
  • 制作期間:約4か月(Web化は3週間)
  • 改訂頻度:年1回(Webは仕様変更の都度)

製品マニュアルの制作フローは非常に複雑かつ制作に多くの方が関わります。

原稿作成(20名) 設計担当者がWord等で設計書等を基に執筆
製品に精通したライターが設計書等の技術文書から執筆
図版制作(3名) スペック表、構成図などマニュアルに必要な図版やイラストをデザイナーが制作、図面をそのまま利用する場合も多い
ページデザイン(2名) 原稿と図版の配置をページ単位にレイアウト。DTPデザイナーが制作
編集、校正(3名) 表現や記述方法、文書構造がばらばらの原稿と図版を編集担当者が適切な形に編集、リライトする。通常初校~最終校まで数回に渡り制作者と編集者の間で繰り返される
翻訳(10名) 海外への輸出や外国人向けのメンテナンスマニュアルの場合、翻訳者が翻訳を行う。製品によっては20ケ国語以上もの言語に翻訳される
進行管理(1名) 制作スケジュールに従い原稿の提出や校正の進行状況を管理
組版(1名) 校正や編集中工程もしくは原稿校了工程で、印刷を行うための版(データ)を作成する。デジタルデータでの入稿が当たり前になりソフトウェアを使った自動組版が一般的
印刷/製本 印刷物として印刷する
Webディレクション(1名) Webに公開する情報しない情報、検索条件等の印刷物制作とは異なる視点でコンテンツ全体を設計
Webデザイン(1名) Webディレクターに従いページのデザインを作成
Webコンテンツ制作(5名) 紙のマニュアル制作フローとは別にWeb担当者が「原稿」を基にWeb公開用のコンテンツを作成。印刷物のプロセスと同様に校正-再編集を繰り返す。最近はCMSを導入し効率化が図られている。

製造業の場合、上記のようなマニュアルの制作は自社の制作子会社や部門が行うケースが多いようです。製品の技術的な特長をかなり詳しく知識として保有していないと制作業務そのものができないのです。

前置きが長くなりましたが、上記の制作業務を全て人手で行っている機械メーカー企業A社様から頂いたシステム提案のリクエストは以下のような内容です。

①システム化の目的
  • 制作業務の大幅な効率化(人力で行っている業務を自動化、省力化)
  • コンテンツの一元化による有効活用を図る(将来も含めて。当面は紙とWeb)

②提案依頼の骨子
  • 印刷物とWebに必要なコンテンツ「過去のものも含めて全て」をXMLで一元管理
  • 制作管理に必要な「素材(原稿、図版、イラスト)も全て」一元管理
  • 制作過程で作られた校了前のデータを版数と共に管理、その履歴も残す
  • 制作管理業務を支援するワークフローと進捗状況の見える化を図る
  • 校了済みデータは、自動組版により「ほぼ全自動的に」組版データを作成する
  • 翻訳は自動翻訳もしくは翻訳メモリで海外拠点とも共有化と効率化を図る
  • Webコンテンツは印刷物のワークフローと連動しデータベースから自動的に出力するワンソースマルチユースを行う

提案例

  • 制作から編集、校正までを多人数で共有するためにWebシステム化。全てのコンテンツはブラウザで入力編集でき、制作管理や版数管理も行う事ができる。
  • 翻訳は翻訳メモリを利用する事で省力化とミス低減を実現。
  • WebCMSと連携してWeb公開をスピードUP。

費用対効果

上記をシステム化するための費用(概算レベル)を仮に5000万円としましょう。システム化による効果は、制作業務の自動化による制作人員の削減、制作期間の短縮などの「コスト削減」と「人力によるミスの低減」です。さて、肝心の「費用対効果」はどうでしょうか?

○ 削減できるコスト

  • 原稿作成と校正のやり取りに発生するコミュニケーションロスの削減
    2時間×20名×3回=120時間 ⇒ 60時間(50%減)
  • 過去の原稿を探して再利用、流用する時間の削減
    1時間×20名=20時間 ⇒ ゼロ(100%減)
  • 制作管理者の管理業務時間削減
    ピーク時の残業時間 100時間 ⇒ ゼロ(100%減)
  • 翻訳者のコスト
    2名(/言語) ⇒ 1名/言語(50%減)
  • Web制作時間の短縮
    5名×3週間 ⇒ 3名×1週間(80%減)

△ 削減できないもの

  • 制作者の人数、図版作成者の人数、編集者の人数、管理者の人数、翻訳者の人数

× 増加するコストや作業

  • 編集方法変更による現場(執筆者や編集者)へのトレーニングと業務フロー変更による関係者への調整、コンセンサスにかかる人的費用と時間
  • システム管理費用(サーバ利用費用、ソフトウェアライセンス、メンテ費用)

コスト面だけの「費用対効果」だけで良いか?

これは本当に顧客にとって良い提案でしょうか?計算上システム化における費用対効果を出す事はいくらでも可能です。しかし、それが本当に顧客が求めるものなのか、その効果が出るまでにどれくらいの追加投資が必要なのか、逆にデメリットは何か、までを提示する必要があります。

  • 執筆者や制作現場に混乱は起こらないか?
  • 組版やWebコンテンツへ出力で「自動化できない部分」はどこか?そのインパクトはどの程度か?
  • システム構築~運用開始までの期間は?
  • 運用開始後に、コスト削減効果が表れるまで何年必要か?
  • 運用開始後の製品仕様の変更や新製品への対応に耐えられるシステムか?
  • システムを拡張、変更するためのコストはどの程度必要か?

「費用対効果」に関する考察

1.段階的・局所的な提案と費用対効果の提示

上記のような多額のシステム化費用と時間を必要とする提案依頼に対して、私は次のような意見を持っています。

よほど顧客業務に精通し、顧客の現場の業務課題だけでなく企業や事業部門の経営課題まで把握している営業でない限り、「絵に描いた餅」の提案になる。

全ての業務課題に対する提案は行いますが、具体的なシステム化提案と費用対効果の提示については、「経営課題、業務課題の重要度と緊急度」「費用対効果が最も顕著に現れる業務」の2点を顧客から引き出し、段階的・局所的に進める方法をとる事が多いです。

  • 「まず制作進行管理者の負担軽減とピーク時の残業時間の50%削減を目標に支援ツールの開発をしましょう」
  • 「製品発売からカタログ発行までの4ヶ月を1ヶ月に短縮するため、新規カタログの作成からはWord原稿のひな型化を行い、組版テンプレートとのデータ紐付けを全自動化するツールを作成しましょう」

顧客側の優先度と緊急度の高い一部業務であれば、説得力が増し、提案自体も現実身を帯びてくるのです。

2.コスト以外の効果の提示

制作支援システムの費用対効果は、コスト削減だけでしょうか?私は提案を行うときに、コスト削減ではない他の要素に注目します。

  • 売上拡大、顧客囲い込み
  • 業務スタイルの変革による、担当者のモチベーションUP、企業価値の向上
  • アウトプットの品質向上、情報提供サイクルの短縮化による製品認知度の向上

「コスト削減」は現場のマネージャにとっては重要ですが、経営層には「企業価値向上」「売上拡大」も非常に重要であり、現場の担当者にとっては「本業への集中」や「残業時間の削減」「モチベーションUP」は非常に重要な要素となるのです。

  • 「まず協力企業のサービスメンテナンス業務に必要な製品コンテンツだけに特化したWeb公開の仕組みを作り、メンテナンスに関するスピードを圧倒的に短縮化しましょう。そうする事で、現場のサービスマンの外出先での作業スピードと作業品質が向上します。結果として顧客満足の向上とメンテナンス部門のサービス受注件数は50%程度UPする事が可能となります」

さいごに

今回は製品マニュアルをテーマに「費用対効果」に関する考察をしました。この分野の業務には必ず「ノウハウを持ったスペシャリスト」が存在し、制作フローの中で非常に重要な役割をはたしています。私は、「システム化=スペシャリストの業務代行が可能となる」とは考えていません。逆にいくらシステム化してもスペシャリストの存在は必要で、削減されるべきものではないと考えています。同じように「カタログ制作」にも「製品を魅力的に見せるスペシャリスト」が存在します。コンテンツやドキュメントなど情報系システムの構築やデータベース化の提案時は、このようなスペシャリストの存在を常に頭に入れ、削減すべき業務とそうでない業務をきっちり分類したうえで提案に挑む事が重要ではないかと考えます。

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